2019年5月2日木曜日

光明真言道標 (鎌ケ谷市・佐津間)

鎌ケ谷市・佐津間にある宝泉院(真言宗)という寺院の近くには、「光明真言道標こうみょうしんごん どうひょう」という小さな石塔が建っています。

建っている場所は 、かつての「鮮魚なま道」(布佐-松戸間の輸送路)の路傍であり、この石塔は道標みちしるを兼ねています。

光明真言道標(鎌ケ谷市・佐津間)
文久4年(1864)造立

「南無大師遍照金剛」と文字が刻された石塔の上の方に、すでに薄れてきてしまっているものの、23文字の梵字が円く連なって陰刻されています。
これが「光明真言」です。

真言の最初の文字「唵」(オン) と 最後の文字「吽」(ウン) の間には、ダンダ(休止符)が置かれることがあります。
梵字を等間隔に円く並べる場合に、23文字よりは 24文字の方が並べやすいということがあるようです。
このダンダの文字を含めて数えた場合は、光明真言は24文字となります。
これについては、再度あとでふれることにします。

また、中央の部分にある5文字は「胎蔵界大日真言」といいます(後述)。

光明真言の部分の翻刻

後述するとおり、本石塔の「真言」には 「光明を放ちたまえ」という文言があるところから、「光明真言」と名付けられています。
英語では、「光明真言」は「Mantra of Light」というそうです。

「真言」は、密教において  仏・菩薩の誓いや教え、功徳などを秘めているとされる呪文です。
原語の呪文をそのまま音写して用いることが多く、「真言自体」には意味がないとされます。

「真言」は、別名を「陀羅尼」(だらに)、または「マントラ」といいます。
これらは、名称こそ異なっていますが、同じものを指しています。

「真言」は、また 「じゅ」・「神呪じんしゅ」・「みょう」・「明呪みょうしゅ」・「密呪みつじゅ」・「密言みつごん」・「密語みつ ご 」などともよばれます。
「真言」は、このように実に多様な名前でよばれています。
また、「神呪」だけを取り上げても、 「じんしゅ」・「しんじゅ」・「じんじゅ」のように様々な読み方をされているようです。

また、「真言」は 以下のように3大別される場合がありますが、実際は「マントラ」という名を含め ひとつにして扱われ、区別されません。

 ❶ 語句の多いもの :       陀羅尼だらに
 ❷ 数語からなるもの :    真言しんごん
 ❸ 一、二字のもの :        種字しゅ じ

ここでもう一度整理しておきましょう。
別名があまりにも多いため 思い切って省略すると、以下のようになります。

真言 = 陀羅尼(だらに) = マントラ(Mantra) = 呪 = 神咒(神呪)


また、石塔には「南無大師遍照金剛」という文字をよく見かけますが、この後半部分にある〈遍照金剛へんじょうこんごう〉という言葉は、弘法大師・空海が灌頂(かんじょう)を受けたときの名前です。
これは伝法阿闍梨位(でんぼう あじゃり い)という位に当たり、伝法灌頂(でんぼう かんじょう)を受けて、教法を伝授する位であり、密教の僧の最高位を示すものです。
「この世の一切をあまねく照らす最上の者」(=大日如来)という意味をもちます。

光明神咒供養塔(印西市・瀬戸)
嘉永5年(1852)造立

鎌ケ谷市・佐津間の「光明真言道標」と同様なものが 、印西市・瀬戸にある光明神咒供養塔こうみょうじんしゅ くようとうです。
真言(陀羅尼・神呪)の陰刻が、佐津間の「光明真言道標」よりもくっきりと残っています。
梵字の各文字の上端が 円盤の中心を向いて ぐるりと配置されている点が、佐津間の「光明真言道標」とは異なっています。

また、この石塔には、陀羅尼(真言)の 最初の文字「唵」(オン) と 最後の文字「吽」(ウン)の間に 句点〔休止符〕の文字(ダンダ)が はっきりと刻まれています。
「光明真言」の文字数は、「ダンダ」を含めなければ23文字であり、含めた場合は24文字となります。

光明神咒供養塔  光明真言(神咒)の部分


1  文字の配置


「光明真言」は、時計の最下部 6時の位置に当たる場所から時計回りに 23文字が円く配置されています。
なかには、「光明真言」の最初の文字「唵」(オン)が、12時の位置から始まっている石塔もあるようです。

中央部分の5文字は「胎蔵界大日真言」です ( 読みがなの色 を変えてあります)。




2   各文字











3 唱え方


オン  ア ボ キャ  ベイ ロ シャ ノウ
マ カ ボ ダラ  マ  ニ  ハン  ドマ
ジンバ  ラ  ハラ バ リタ ヤ  ウン

唵  阿 謨 伽  尾  盧 左 曩
摩 訶 母 捺囉  麽(麼) 抳  鉢 納麽(麼)
入嚩 攞  鉢 囉 韈  耶  吽


4 意味


オーン(聖音)
不空アボキャなる御方(不空成就如来)よ、
毘盧遮那ベイロシャノウ(大日如来)よ、
偉大マカなるボダラを有する御方(阿閦如来)よ、
宝珠マニ(宝珠如来)よ、
蓮華ハンドマ(阿弥陀如来)よ、
光明ジンバを 放ち給え、
フーン(聖音)

五智如来(上記の五大如来)に光明を放ちたまえ」といった意味でしょうか。

以下により、CDに収録されている光明真言を試聴できます。

 ➜  HMV  ONLINE 高野山真言宗  壇信徒勤行


5 胎蔵界大日真言


中央にある5文字は「胎蔵界大日真言」です。
大日如来に祈るときの呪文であり、 中央 → 下 → 左 → 上 → 右 の順(「の」の字状)に読みます。


この5文字は、五大である「地 水 火 風 空」をあらわします。