日本では、昭和以降、彼の著作は2冊が出版されたのみであり、現在 新本で入手できるのは1冊のみです。
ところが、ヨーロッパでは今もって出版物が刊行されており、その多さに驚かされます。
しかも、著作のほとんどがインターネットにより無料で目にすることができます。
1 博士論文
最初に博士論文です。静脈に関するものでしょうか。
当時の植物学者の多くは医学を学んでおり、まず医師として生活の基盤を得ていました。
➜ 博士論文 De venis resorbentibus(1767 大学に提出) |
4ページ目に母親の再婚相手である ガーブリエル・フォッシュベリ(Gabriel Forsberg)の名前と 自分の母親 マルガレータ・スタルクマン(Margaretha Starkman)の名前が大きな文字で印刷されています。自分を養ってくれた義父と母への感謝をこめた献辞でしょう。
博士論文における 義父と母親への献辞 |
2 日本植物誌
次に、Flora Japonica (『日本植物誌』)です。
これもラテン語で書かれています。
➜ Flora Japonica(1784) |
この本は、文政12年〔1829〕に『泰西本草名疏』(たいせいほんぞうめいそ)として花繞書屋というところから翻訳出版されています。
訳者は、シーボルトから直接 植物学(本草学)の手ほどきを受けた伊藤圭介(舜民)です。
➜ Wikipedia 伊藤圭介
1827年、彼はシーボルトからこの原著を手渡され、その2年後の1829年に翻訳・出版しています。
幸いなことに、『泰西本草名疏』は 早稲田大学の古典籍総合データベースで読むことができます。以下がリンク先です。
➜ 早稲田大学 古典籍総合データベース 『泰西本草名疏』
➜ 『泰西本草名疏』(上巻) (1829) |
➜ 『泰西本草名疏』(下巻) (1829) |
➜ 『泰西本草名疏附録』 (1829) |
3 旅 行 記
3つ目に、旅行記です。
まず、スウェーデン語による原著。
次は、山田 珠樹(訳註)による『ツンベルグ日本紀行』(駿南社) 昭和3年〔1928〕の底本となった仏訳本です。旅行記の部分的な翻訳です。
2巻に分かれていますが、第1巻の終わりの方で日本への紀行についてふれはじめたかと思うと第2巻につづくとなって終わります。
フランス人の商売のうまさを感じます。
なお、自然誌に関わる部分はラマルクが校訂を行っています。
用不用説で有名な進化論者ラマルクですが、元々は植物学者であったようです。
下記のリンク先は、なぜか本来あったはずのツンベルク肖像の口絵が欠けています。
➜ 仏訳本 Voyages au Japon 第1巻 (1796) |
➜ 仏訳本 Voyages au Japon 第2巻 (1796) |
上の仏訳本から日本紀行に関する部分だけを訳出したのが、以下の山田珠樹による『ツンベルク日本紀行』です。
➜ 邦訳『ツンベルグ日本紀行』(駿南社) 昭和3年〔1928〕 |
『ツンベルグ日本紀行』とほぼ同じ範囲を翻訳してあるのが 平凡社刊の『江戸参府随行記』です。
書名で誤解されそうですが、江戸参府のことだけではなく、日本滞在中のすべてのことがカバーされています。
こちらは 高橋文氏によるスウェーデン語原典からの翻訳です。
山田訳は インターネットで見られることと、古書でしか入手できないことから、こちらの本の購入をお勧めします。
高橋訳は山田訳を参考にしていますし、地名や人名等も現在一般的に用いられている読み方になっています。
通常版とワイド版があり、新本が購入可能なようです。
絶版となった場合には、古書またはオンデマンド版で入手できます。
➜ Amazon 『江戸参府随行記』 (ワイド版東洋文庫 583)(平凡社)
『江戸参府随行記』(通常版)(平凡社)(1994) |
この原典からの翻訳を山田訳と比べて読むと 章の順序に違いがあります。
仏訳する段階で編集し直され、文章の順序が入れ替えられたようで、仏訳本と山田訳本は 目次の並び順が同じです。
このことは、山田訳本の「序」 XI ページでもふれられていて、文章自体にも手が加えられているため、訳出する際に記述の仕方を工夫するかどうか迷ったと書かれています。そして、参考にした英訳版はスウェーデン語原典の順序どおりだったと述べています。
この本の抜き書き帳のような記事があります。以下のサイトです。
➜ ツュンベリーの記録――江戸参府随行記 (オロモルフ)
この記事を書いたオロモルフという人について調べたら、なんと SF作家として有名な石原藤夫氏でした。
欧米では今なおツンベルクの著作に関する新しい出版がなされています。
以下は、日本旅行記の部分を英訳した本であり、イギリス、アメリカ、カナダで同時発行されました。
新しいだけあって、挿絵の質が高く大変きれいです。
しかも、原著にない挿絵を大量に載せており、飽きさせません。
まだまだ版権が有効なため、以下のリンク先では3分の1程度しか目をとおせませんが、ぜひご覧いただきたいと思います。
➜ 英訳本 Japan Extolled and Decried (2005) |
➜ ツンベルク(その6) ウプサラ大学 資料 (1) 「使徒たち」