2019年4月11日木曜日
私の好きな作曲家(10) ショスタコーヴィチ
ショスタコーヴィチ(Dmitrii Dmitrievich Shostakovich:1906〜1975)は、第二次大戦とその前後の世界情勢が生んだ作曲家だといえる。
この作曲家は、ソビエトという体制下で綱渡りのような生活をしながら生き延びた。
ショスタコーヴィチの作品ジャンルは幅広いが、なかでも弦楽四重奏曲は特筆すべきものだ。
20世紀の弦楽四重奏曲のなかでは、バルトークによる全6曲のそれが傑出して素晴らしいが、それ以降に登場した多くの作品のなかに屹立するのがショスタコーヴィチによるものである。
後半生を中心に15曲の弦楽四重奏曲が作曲された。
私は、弦楽四重奏曲の第3番(1946)の第3楽章を聴いて、音楽で暴力が表現できるということを知った。
とても衝撃的なことだった。
ショスタコーヴィチの音楽は暗い。
〈もう これ以上はない〉というくらい暗い。
しかし、その一方で底抜けに明るく楽しい曲も多い。
後年、ドリス・デイが映画の主題歌として歌い大ヒットした「二人でお茶を」(1950)の原曲( ヴィンセント・ユーマンス作曲:1925)を編曲した「タヒチ・トロット」 (Tahiti Trot:1927)などは、その典型である。
あまりに楽しいので、ちょっと聞くだけのつもりでいても、最後まで聞きとおしてしまうということが多い。
また、繰り返し使われた音型がある。
『ジャズ組曲第1番』(1934)の1曲目の Waltz を聞くとすぐに分かるフレーズだ。
『ジャズ組曲第2番』(1938)の3曲目の Waltz も同様なフレーズだ。
また、バレエ組曲『明るい小川』(1934)にも使われている。
なんだか場末のサーカスの一場面を見せられたようなチープなフレーズである。
しかし、このフレーズは、ショスタコーヴィチの原点に位置する大切なものであるように思う。