2019年4月9日火曜日

私の好きな作曲家(6) ヴェーベルン


新ウィーン楽派三羽烏の一人、ヴェーベルン(Anton Webern:1883〜1945)。

『アウトサイダー』により一躍有名人となったコリン・ウィルソンは、かつて、『コリン・ウィルソン音楽を語る』において、ヴェーベルンの音楽を〈広げた本のページの上をひそやかに歩く蝿〉に例えている。
実に絶妙な比喩で、多くの楽曲は このイメージに合っているように思える。

しかし、無調や十二音技法に入る前の作品には、後期ロマン派の香り馥郁たる楽曲がある。
そのひとつが『弦楽四重奏のための緩徐楽章』(Langsamer Satz : 1905)。

聞いてすぐに、「これは、ほとんどブラームスではないか」と思った。

シェーンベルクがドヴォルザークそっくりの弦楽四重奏曲(未出版・無番号:1897)を作曲したり、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番の管弦楽編曲(1937)をしたのと同様に、ブラームスらとの精神的なつながりを深く感じさせられる。


『ラングザマー・ザッツ』を初めて聴いたのは、オランダ Philips からの直輸入 LP 盤によってだった。
当時の価格は 2,400円。 消費税もなかった。
いっさい傷のない、実に美しい盤面だった。
日本でプレスされたフィリップスの LP とは大違いだった。

演奏はイタリア四重奏団
たぶん、この曲の最初の録音。
A面の最初に収録されていた。
この四重奏団のもつ豊麗な音色が生かされた 在りし日の Philips らしい見事な録音だった(いまでは Decca レーベルに吸収されてしまい、CD のリマスタリングまで Decca 風に甲高い痩せた音に変わってしまった)。

最近になって、この曲は多くの弦楽四重奏団によって演奏されるようになり、耳にする機会も増えた。

ここには、ウィーンに生まれ、フランスでは ついに生まれることのなかった豊饒な響きが聞きとれる。