2019年4月13日土曜日

私の好きな作曲家(14) オネゲル


昔、レコードを買う金銭的な余裕のなかった自分は、もっぱらNHKのFM放送により音楽を聴くことで、その渇きを癒やしていた。

私は 当時の自分の姿 ―― 愛用していた STAX のヘッドホンを頭にかけて、じっと放送に耳を傾けている自らの姿を、容易に思い起こすことができる。


あるとき、オネゲル(Arthur Honegger:1892〜1955)の交響曲第3番『典礼風』(Liturgique:1946)が、何度か放送されることがあった。
アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団によるものであった。
全てを浄化するような第3楽章終結部のフルートとヴァイオリンによる独奏を聞いて、いっぺんでオネゲルが好きになってしまった。


オネゲルの交響曲は全部で5曲あり、それぞれに特徴がある。
第2番(1941)と第5番(1950)の交響曲は、シャルル・ミュンシュ指揮による演奏が図抜けている。
こんなにも激しく緊張感のある指揮ができる人は、もう出てこないだろう

交響曲第4番『バーゼルのよろこび』 (Delicae Basilienses:1946) は、作曲者と同じスイスを出自とするシャルル・デュトワが、バイエルン放送交響楽団を振ったものが出色の出来である。
爽やかなスイスの風が吹き渡ってくるかのようだ。
私は、この交響曲がオネゲルの管弦楽作品の中で もっとも優れたものだと思っている。


さて、オネゲルといえば、なんといっても『火刑台上のジャンヌ・ダルク』(1935)である。
上の YouTube の動画は、2006年における ラングドック=ルシヨン地域圏モンペリエ国立オペラ劇場での公演を ラジオ・フランスが記録したもののようである。
ジャンヌ・ダルク をフランスの名女優 シルヴィー・テステューが演じている。


この作品の演奏会形式の初演は1938年であり、舞台初演は1942年である (ともにスイスにて)。

全曲の終わりに近い部分で、ジャンヌが寂しげにトリマゾを歌い、「Une petite larme pour Jeanne…」 (このジャンヌに 涙のひと雫をお与えください) と言うところでは、聴いていて つい涙がこぼれてしまう。

かつて 学生時代には、東京文化会館の3階辺りにレコードが聞ける小さなブースがあり、同館所蔵の LP をヘッドフォンで聴くことができた (いまでも あるのだろうか?)。
そこで、この曲の英語版を小澤征爾指揮による LP で聞いたことがある。
Vera Zorina がジャンヌ役だった。

英語版の Wikipedia によると、シャルル・ミュンシュ指揮 ニューヨーク・フィルによるアメリカでの公演時には、このノルウェー人がジャンヌを演じたようだ。

映画では、スウェーデン人のイングリット・バーグマンがジャンヌを演じている DVD が入手できる (この映画にオネゲルは関与していない)。

いまでも、小澤征爾がタクトを振った英語版は CD で入手可能だ。
さらに、いまはフランス語によるものが DVD を含めて簡単に手に入る時代になっている。
この曲をよく知るには、フランス語による歌詞の対訳が載った小冊子が付いた日本メーカーによる CD を手に入れるのが 手っ取り早い近道だと思う。

この曲の本質に迫りたいなら、セルジュ・ボドがチェコ・フィルを振ったものに止めを刺す。
なんといっても ジャンヌ役の女優が素晴らしい。
フランス語が分からなくても聴き入ってしまう。
台本も 文豪 Paul Claudel によるものであり、大変な迫力を感じる。

ボド指揮の CD は、本家スプラフォン以外にも 日本コロムビアから出ている。
対訳の冊子は付いていないが、CD-EXTRA仕様となっており、PDF ファイルで歌詞の対訳が付いている。
しかし、冊子になった対訳が ほしいところである。


100年間は、この曲を超えるような音楽劇は現れないことだろう。