古今の作曲家多しといえども、管弦楽法の見事さではラヴェル(Maurice Ravel:1875〜1937)の右に出るものはいないだろう。
『ダフニスとクロエ』(Daphnis et Chroé:1912)などの管弦楽曲(この場合、全曲版は合唱付)を聞くと その見事さがよく分かる。
また、『子どもと魔法』(L'enfant et les sortilèges:1925)とよばれる音楽劇では、その管弦楽法が手に取るように鮮やかに見えてくる。
なお、上の サンパウロ市立劇場における YouTube の動画は出色。
特に白い中国の陶器を演じている Luciana Bueno という方は大迫力。
この曲はラヴェル自身により "Fantasie lyrique"(抒情的幻想)とよばれている。
タイトルの訳名は、長くなってしまうが、『子どもと魔法にかけられたものたち』といった意味合いだ。
この幻想劇に登場する〈人物〉は、これらと、大きな靴とエプロンで象徴的に表現される母親である。
いたずらし放題だった子どもが、最後には反省し 「ママン!」と呼びかけ、幕を閉じる。
しかし、中国人を揶揄するように歌うことなどは期待していなかったはずだ。
聞いていると不快な気分が募ってくる。
大家と言われる指揮者のなかにも、多様な文化への理解を欠く者がいることが分かる。
こうした録音は商品としてマーケットに出す価値がない。
CD の発売元にも責任があるのではないだろうか。
私は、いつもアンセルメによるものを聞いている。
「雪舟・早川」と歌うべきところも正しく誠実に歌われている。
また、なによりも 子ども役を演じた メゾ・ソプラノの Flore Wend(オランダ語読みだと「フローレ・ウェント(ヴェント)」、フランス語読みだと「フロール・ワン」 ※ スイス生まれだが、国籍は オランダ領ギアナだった スリナム) が素晴らしい。
この録音は、なんと1954年のものであり、しかもステレオ録音だ。
いまなお鮮明な録音。
当時の Decca の録音技術が いかに優秀であったのかがよく分かる。